逮捕されたり刑事裁判に掛けられて、その情報がgoogleやyahoo等の検索エンジンやネットニュースの記事でいったん掲載されてしまうと、様々な形で引用され、削除されることなく残り続けることがあります。逮捕歴や犯罪歴は特に人に知られたくないものです。しかも、逮捕歴はネットニュースの記事などから2ちゃんねる・まとめサイトなどに書き込まれどんどん拡散する傾向にありますので、早急に対処する必要があります。
〈犯罪歴が残ることによる不利益〉
犯罪歴がネット上に残り続けることによって多大な不利益が生じます。
①就活や転職、昇進への悪影響
就活や転職活動を行っても、会社が名前を検索することで犯罪歴を知り、採用を見送られることがあります。また、会社に勤務している場合には、職場が犯罪歴を知り、解雇されたり昇進させて貰えないといった不利益な処分がなされることもあります。
②友人関係や結婚への悪影響
交際相手と結婚したいと思っても、恋人が名前を検索して犯罪歴を知り、別れざるを得なくなったり、仲の良かった友人が離れていってしまうことがあります。
③家族への悪影響
犯罪歴があることが検索で分かると、自分自身だけでなくその家族も周囲から非難を受けたり不利益な扱いをされることもあります。
〈削除が認められるには〉
人はだれしも、逮捕歴や前科に関わる事実を公表されない法的利益、個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益があるとされています。もちろん、ニュース記事等への掲載も表現の自由に基づく行為ですので、どんな場合でも削除が認められるわけではなく、プライバシー権を過度に侵害する場合に削除請求が可能となります。
この点、最高裁は過去に児童買春をした罪で有罪判決を受けた者が、逮捕された記事が複数インターネット上に残っており、名前で検索をすると逮捕されたことが直ぐに分かってしまうため検索結果の削除を求めた事案で、検索結果の削除を求められるか否かは、「当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らか」であるか否かを判断基準とするとしています。具体的事案では、下記のポイントが判断基準として重視されています。
①事件が発生してからの時間の経過
事件が発生してから一定程度期間が過ぎれば、その事件の社会的影響も弱まり、実名報道の必要性も薄まります。「一定程度の期間」とは、事件の性質や社会に与えた影響・重大性などから個別に判断されます。
②更生の利益
執行猶予となって執行猶予期間が経過している場合や実刑判決後に刑に服して社会に復帰した場合には、その人が更生するためにも、記事を削除すべきであるとの判断がされやすくなります。また、被害者との示談が成立していることも削除請求が認められやすくなる方向に働きます。
③削除の必要性
犯罪歴等の記事が掲載され残っていることによって、その人にどの程度の具体的な不利益・被害が出ているのか(例えば、就労が難しくなっている、住む家が見つけづらくなっている、結婚が出来ない等)という点も重視されます。特に削除を求める仮処分では削除の必要性をしっかりと主張する必要があります。
④不起訴・執行猶予付き判決の場合
逮捕されたとしても、不起訴になったケースでは、犯罪の程度が軽いことが多く、社会的な影響も大きくないと考えられることから、それほど時間が経っていなくても、削除請求が認められる可能性があります。
〈削除依頼の方法〉
削除依頼の方法には、大きく分けて任意の削除依頼と裁判所への申立の2つの方法があります。
①任意の削除依頼
サイトに管理者宛てのメールアドレスや削除を依頼するフォームが用意されている場合には、これらを用いて直接監理者に対して削除依頼を行います。その際には、管理者が削除すべきか否かについて判断できるように、法的に整理して理解しやすい内容に整理することが必要です。
また、サイト管理者宛てのメールアドレスやフォームが用意されていない場合でもプロバイダ責任制限法を基に作成されたガイドラインに基づいて削除を依頼する方法があります。
②裁判所への申し立て
裁判所への削除を求める申し立てには、通常訴訟を提起する方法と仮処分を申し立てる方法の2つがあります。一般的には、通常訴訟では判決が出るまでに長期間必要であるため、比較的早期に判断が下される方法として仮処分を申し立てることが通例です。
ネット上の逮捕歴や犯罪歴を削除してもらえるかどうかは、色々な事情を総合考慮して判断されるため判断も難しく、またニュース記事を掲載している報道機関等を相手に一人で対処するのも難しくなります。また、削除されるべき理由についても工夫し他説明を行うことが求められます。そこで、逮捕歴等の犯罪歴の削除依頼をする場合には、弁護士に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。